交通事故で脳に損傷を受けて、意識不明状態となったけれど、奇跡的に意識を回復して社会復帰できた被害者の方がいます。
ところが事故の前と比べると、別人のような人柄となり、記憶力・集中力にも問題が生じて、仕事・学業・家事ができなくなってしまう例があります。これが高次脳機能障害です。
このような状態となったときに、自賠責保険の後遺障害等級認定を受けるには、どのようなポイントに注意するべきかを解説します。
高次脳機能障害とは
脳には、視覚、聴覚、触覚などの五感の情報を受け取るだけでなく、その情報を記憶し、分析し、理解したうえで、次の行動に反映させる等の高い次元の活動をする機能があります。これが脳の「高次機能」であり、人間が知的活動を行い、社会の一員として生活をするうえで不可欠のものです。
交通事故の外傷で、この重要な機能が損なわれたものが、高次脳機能障害です。
高次脳機能障害には次のような典型的症状があります。
①認知障害
- 新しいことを記憶できない
- 気が散りやすい
- 計画的行動が不可能
②行動障害
- 周囲の状況に応じた行動がとれない
- 複数のことを同時にこなせない
- マナー、ルールを守れない
- 話が回りくどい、要点を話せない
- 行動を制御できない
- 危険を察知しての回避行動がとれない
③人格変化
- 自発的に行動ができない
- 無気力
- 怒りっぽく、わがまま、衝動的になった
高次脳機能障害の原因
交通事故の後、脳出血や脳挫傷の痕跡(脳の形態的な異常所見)が認められないにもかかわらず、上のような高次脳機能障害の諸症状が起こる場合があります。
その原因は、「びまん性脳損傷」(びまん性軸索損傷)です。びまん性とは、広く全体に症状が及んでいるという意味です。
大脳には膨大な神経ネットワークが張り巡らされています。衝撃や出血の圧迫で、このネットワークが広範囲に断線して、情報の伝達が阻害されてしまうのです。
ところが、この断線した神経ネットワークは、レントゲン、MRI、CTのような画像で確認することが困難なのです。そこに、びまん性脳損傷での高次脳機能障害を認定する難しさのひとつがあります。
高次脳機能障害の後遺障害等級
自賠責保険が高次脳機能障害で認定する可能性のある後遺障害等級は次のとおりです。
等級 | 後遺障害 | 補足的な考え方(※) |
---|---|---|
別表第1、1級1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
別表第1、2級1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断能力の低下や情動の不安定などがあって、一人では外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体的動作には、排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声かけや看視を欠かすことができないもの |
別表第2、3級3号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいこと学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
別表第2、5級2号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
別表第2、7級4号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行う事ができないもの |
別表第2、9級10号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、服する事ができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
※「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて(平成12年12月18日)」自動車保険料率算定会(現損害保険料率算出機構)高次脳機能障害認定システム確立検討委員
高次脳機能障害の後遺障害等級認定のポイント
自賠責保険では、次の3つのポイントを総合的に判断して、高次脳機能障害の後遺障害等級認定を行っています。
①画像所見
MRI、CT等の画像で脳の損傷を確認できなくても、「びまん性脳萎縮」が判明し、そこから、びまん性脳損傷がわかる場合があります。
びまん性脳萎縮とは、神経ネットワークが断線した場合に脳全体が萎縮する症状を言います。萎縮は事故後3ヶ月程度で固定します。萎縮の有無は、脳室と呼ばれる大脳内部の空間が広がったり、脳溝と呼ばれる脳のしわが拡大することからわかるのです。
そこで、びまん性脳萎縮の判定には、事故直後から脳の画像撮影を行っておくことが重要なポイントとなります。
②意識障害の継続
高次脳機能障害は、脳に外傷を受けた後に、6時間以上継続した意識障害(昏睡状態など)を起こしたケースで特に起こりやすいとされます。
自賠責保険でも、受傷後の意識障害が6時間以上続いたケースは高次脳機能障害の可能性がある特定事案として、高次脳機能障害を専門に審査するセクションでの審査を行う扱いとなっています。
③異常な傾向
事故前と比べて、人格、人柄、行動の異常な傾向があることです。
- 感情の起伏が激しい
- すぐに怒る
- 大声を出す
- 会話が回りくどい
- 会話の内容がコロコロ変わる
- 外見に無頓着
- 恥じらいのない行動
- 同時に複数のことができない
- 起立や歩行の障害
- 失禁する
この異常な傾向は、事故前にはなかった異変であり、日常生活を送るうえで現れてくるものです。
それは医師にはわからないことであって、家族、友人、同僚、上司、担任教師など、事故前の被害者をよく知り、事故後も身近にいる人々であって初めてわかることです。
そこで、高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、家族など身近な人々からの被害者の日常生活状況の報告書、陳述書が重要なポイントとなります。
高次脳機能障害は見過ごされやすい
生死が危ぶまれる昏睡状態から生還したときは、命が助かった喜びでいっぱいで、被害者自身はもとより、家族でも被害者の人格などが変化していることに気づけないことは珍しくありません。
被害者が高齢者であれば周囲は年のせいと思いがちですし、被害者が子供であれば親は成長期のためだと思ってしまう場合もあります。
このため高次脳機能障害は見逃されてしまう危険性が高い後遺障害なのです。
当事務所が担当した高次脳機能障害の事案の中にも、次のようなケースがありました。
当事務所の弁護士が、暴れて警察に逮捕されてしまった方の刑事弁護を担当したところ、実は交通事故に遭った被害者であったことが分かりました。
ご家族から事情を聞いたところ、たしかに事故後から本人の性格が変わって、怒りやすくモノにあたるようになってしまったということでした。
当事務所では、過去に担当した経験から、高次脳機能障害での後遺障害等級認定を得られる可能性があると判断し、交通事故についてもお任せいただき、ご家族から聴取した内容を陳述書にまとめて提出するなどし、高次脳機能障害の後遺障害等級認定を獲得することができました。
高次脳機能障害は当事務所にお任せください
高次脳機能障害は、交通事故の分野では、比較的最近となって認められてきた後遺障害であり、高次脳機能障害を取り扱った経験の有無、専門知識の有無が結果を左右します。
当事務所では、高次脳機能障害で後遺障害等級を獲得してきた実績があります。高次脳機能障害でお悩みの方は是非、当事務所にご相談ください。