代表弁護士 林 伸彦 (はやし のぶひこ)

交通事故の損害賠償額に大きな影響を及ぼすのが過失割合です。

では過失割合はどのようにして、誰が決めるのでしょう?

ここでは過失割合の決め方を解説します。

過失割合の基準とは?

交通事故の被害者にも落ち度があった場合は、その内容・程度に応じて、事故による損害を分担させることが公平です。これを過失相殺といい、被害者と加害者それぞれが分担する割合が過失割合です。

どのような場合に、どの程度の過失割合となるのかを定めた法律はありませんが、何らの基準もなければ、事件処理が場当たり的となり不公平です。

そこで、過去の裁判例などを参考として目安となる基準をまとめたものが書籍として発表されており、実務ではこれを参考としています。

実務に大きな影響力をもっている本が「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」(別冊判例タイムズ38号)です。これは東京地裁民事交通部裁判官の考え方を公表したものです。

これ以外にも、日弁連交通事故相談センター東京支部による、通称「赤い本」として有名な「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」も過失割合の基準を掲載しています。

過失割合を決める方法とは?

事故類型ごとの基本となる過失割合

過失割合の基準を定める書籍では、「歩行者と四輪車・単車との事故」とか「四輪車同士の事故」、「単車と四輪車の事故」のように、まず当事者の種類によって事故を区分します。

さらに、例えば「四輪車同士の事故」であれば、「交差点における直進車同士の出会い頭事故」、「交差点における右折車と直進車との事故」等のように態様を分けます。

さらにその交差点が、信号機での交通整理が行われている場所か否かで区別し、信号があるなら、青信号と赤信号で衝突したケース、黄信号と赤信号で衝突したケースなどと細かく分類してゆきます。

こうして事故の種類を分類したものを事故類型として、基本の過失割合を定めているのです。

例えば、典型的な事故である「交差点における右折車と直進車との事故」で、交差点には信号機があり、直進車も右折車も、ともに青信号で進行したというケースでは、過失割合は、直進車20%、右折車80%が基本とされています。

右折車の過失が8割とされるのは、右折する車は、直進車の進行を妨害してはならない義務があるからです(道路交通法37条)。

他方、直進車にも2割の過失が認められるのは、直進車であっても交差点を通過する際には、「反対方向から進行してきて右折する車両」に「特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」(道路交通法36条4項)義務があるからです。

このように、過失割合を知るには、まず、その事故が当てはまる類型を探す作業から始まるのです。

修正要素とは

事故の類型によって、基本となる過失割合がわかっても、さらに個別の事情によって過失割合を調整する場合があります。これが「修正要素」です。

例えば、右折車には、「右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分)を徐行しなければならない」(道路交通法34条2項)義務があります。

この義務を怠って徐行をしていない、道路の中央に寄らないで曲がる(これを「大回り右折」と言います)などの場合は、より右折車の過失が大きいので、修正要素として、過失を5%加算し、右折車の過失割合を85%とするのです。

逆に、直進車が速度違反をしていれば、その程度に応じ、時速15キロ以上の違反は10%加算して過失割合30%とし、時速30キロ以上の違反は20%加算として過失割合40%とするのです。

歩行者と自動車との事故では、歩行者が保護の必要が高い高齢者、児童、幼児、身体障害者の場合には、歩行者側の過失割合を5%から10%減じます。

事故現場が住宅街や商店街という、人の横断・通行に特に注意を払うことが要求される場所であれば、自動車の過失割合が5%から10%加算されます。

類型に当てはまらない場合には?

各刊行物に掲載された事故の類型は、数百にも及びますが、それでも現実に起きる事故のすべてを掲載しているわけではなく、どの類型にも該当しない事故もあります。

その場合は、できる限り近い類型を探し、具体的に妥当といえる過失割合を考えることになります。

過失割合は誰が決めるのか?

では、このような方法で過失割合を決めるのは誰でしょうか。

警察ではありません。過失割合は民事上の損害賠償の問題ですので、警察が判断することではありません。

過失割合は、以下のように決められます。

  • 示談交渉においては、被害者と保険会社が交渉をおこなって双方が合意して決めます。
  • 訴訟においては、裁判官が決めます(もっとも、訴訟の場で裁判官が仲裁役となって双方が合意して決める場合も数多くあります。これが「訴訟による和解」です)。

示談交渉において、保険会社側が提示してくる過失割合は、あくまでも保険会社の一方的な言い分であり、ひとつの提案に過ぎません。

しかも、それが適正な内容とは限りません。営利企業である保険会社は支出する賠償額を少なくするために、加害者に有利な過失割合を提案してくるものです。

保険会社から言われるままに示談に応じてしまえば、本来、受け取ることができた賠償金を受け取ることができなくなります。

過失割合が決まり、過失相殺が行われると損害賠償額の全体がその割合で減額されてしまいます。損害額が大きいほど減額も大きくなります。たとえ過失割合が5%の違いであっても、損害の総額が2000万円であれば、100万円もの違いとなってしまうのです。

正しい損害賠償を受けるには、保険会社からの過失割合の提案を慎重に吟味して判断し、誤っていれば反論することが大変重要なのです。

過失割合の問題は、当事務所にお任せください

交通事故問題の専門知識のない被害者が、示談交渉で保険会社の担当者と渡り合うことは非常に困難です。

当事務所は、交通事故事件の豊富な経験から、被害者に有利で適正な過失割合を保険会社に認めさせる、多くのノウハウを蓄積しています。

過失相殺の問題でお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。