代表弁護士 林 伸彦 (はやし のぶひこ)

会社の仕事で営業車を運転中に交通事故で怪我をした場合、労災保険を利用することができます。

労災保険(労働者災害補償保険)は、従業員を雇用する会社側に加入義務がある保険制度で、保険料も会社が負担しています。

労災保険を交通事故に利用すると、どのような給付を受けることができ、どのようなメリットがあるのかについて解説します。

労災保険が適用されるケース

労災保険の適用を受けることができるのは次の2つのケースです。

  • 業務中の事故……仕事中に車の運転や歩行をしていて交通事故にあったとき
  • 通勤中の事故……出勤途中、帰宅途中に交通事故にあったとき

労災保険の給付内容

労災保険から受けることができる給付の概要は以下のとおりです。

  • 療養補償給付……労災保険が治療費を直接に病院に支払ってくれます。
  • 休業補償給付……仕事を休んだ損害の8割までを労災保険が補償してくれます。
  • 傷病補償年金……治療開始から1年半が経過しても完治せず、労災保険が定める一定の傷病等級に該当する場合に受け取ることができる年金です。
  • 障害補償給付……後遺障害について、交通事故と同じく1級から14級までの等級が決められており、7級までの重い後遺障害には年金として、その他の後遺障害には一時金が支払われます。
  • 介護補償給付……被害者が介護を必要とする状態になったときに支給されます。
  • 遺族給付金・葬祭料……死亡事故の場合に、遺族に支給されます。

交通事故で労災保険を利用するメリット

労災保険では、上記のとおり各種の手厚い給付を受けることができますので、労災保険を利用できる場合は、これを利用するべきといえます。

また、給付の種類だけでなく、労災保険を利用することで、利用しない場合と比べて、次のようなメリットが生じる場合があります。

(1)労災保険が負担する治療費には限度額がない

自賠責保険では、例えば傷害の場合120万円という限度額があり(後遺障害が残る場合を除きます)、この限度額の中で治療費、休業損害、入通院慰謝料などの各損害をまかなわなくてはなりません。

この限度額を超える損害は、加害者本人か、その契約している任意保険会社に請求しなければなりません。

もしも、加害者が任意保険に加入しておらず、支払能力もない場合は、限度額を超える損害は被害者の自己負担となってしまいます。

たとえ、任意保険に加入していても、治療が長引くなどして治療費が自賠責保険の限度額を超えそうになると、支出の増加を嫌う任意保険会社から、治療費支払いの打ち切りを通告される場合もあります。

しかし、労災保険の療養補償給付には、このような限度額がないため、治療費の全てを負担してもらうことができます。治療費の心配をすることなく、治療を受けることができるのです。

(2)労災保険が負担する治療費には過失割合による減額がない

自賠責保険では、被害者の過失割合が7割を超えると賠償額が減らされてしまいます。これを重過失減額といいます。

傷害のケースでは過失割合が7割を超えると賠償額の2割が減額となります。

後遺障害・死亡事故のケースは、過失割合7割以上8割未満のときは2割減額、8割以上9割未満のときは3割減額、9割以上10割未満のときは5割減額です。

この重過失減額は、自賠責保険の賠償額全体に及ぶので、治療費も減額されてしまいます。

しかし、労災保険の療養補償給付には、このような被害者の重過失による減額という制度がありません。被害者の過失割合が高くても、治療費を全額補償してもらえるのです。

(3)労災保険では費目流用禁止のため賠償額が多くなるケースがある

例えば、被害者の過失が 30%の事故で、治療費が100万円、慰謝料が 100万円という場合を考えてみます。

労災保険を利用しない場合は過失相殺で30%減額され、賠償請求できるのは、治療費70万円と慰謝料70万円の合計140万円です。

他方、労災保険を利用していた場合、治療費100万円は療養補償給付として過失相殺を受けることなく病院に支払済みですので、加害者側からすると被害者は治療費を30万円多く受け取っており、慰謝料70万円から30万円を差し引くべきだと主張したくなります。

しかし、この場合、労災保険からの治療費の払いすぎ分を、加害者が負担する慰謝料から差し引くことはできないとされています。

労災保険から補償は、被害者の財産上の損害をてん補するためのものであって、慰謝料のような精神的損害のてん補をも目的とするものではないからです(最高裁昭和58年4月19日第三小法廷判決)。

このように補償額の項目(費目)が異なる項目間で金額の調整を行うことを禁止する扱いを費目の流用禁止といいます。

その結果、上のケースでは、被害者は療養補償給付としての治療費100万円と慰謝料70万円の合計170万円の賠償を受けられることになり、労災保険を利用しない場合よりも賠償額が多くなることになります。

(4)労災保険の利用で休業補償の金額が多くなる

休業補償は、自賠責保険では事故前の収入をもとに計算した10割が補償されます(ただし、前述のとおり限度額があります)。

他方、労災保険では、収入の6割を補償する休業補償金と、2割を補償する休業特別支給金の合計8割までしか補償されません。この点では、自賠責保険の方が、被害者に有利です。

さて、先に自賠責保険から10割の休業補償を受け取れば、もう労災保険からは休業補償を受け取れないようにも思われます。二重取りとならないよう、受領済みの金額を損害額から控除するべきだからです。これを損益相殺といいます。

ところが、その場合でも、2割の休業特別支給金だけは損益相殺の対象とされず、受けとることができるのです。

「特別支給金は労働福祉事業の一環として被害者の療養生活の援護などにより、その福祉の増進を図るため」、つまり「福祉事業」であって、損害賠償請求権のような被害者の損害を補てんする性格のものではないからです(最高裁平成8年2月23日第二小法廷判決)。

この結果、被害者は、労災保険の利用によって、休業補償については、120%の金額を受け取ることができることになります。

交通事故で労災保険の利用は当事務所にお任せください

労災保険を利用できるケースでも、雇用主の側がその利用に難色を示すケースがあり、当事務所では、そのような場合のご相談にも応じます。

交通事故での労災保険の利用でお悩みの方は、是非、当事務所にご相談ください。