代表弁護士 林 伸彦 (はやし のぶひこ)

交通事故で通院中、加害者の任意保険会社から、治療打ち切りを打診されるケースは珍しくありません。

その打診の意味と正しい対処法、弁護士を代理人としたときの弁護士の活動について説明します。

治療打ち切りの打診と不安

例えば、むち打ち症では通院3ヶ月ころに次のような打診があります。

  • 「そろそろ症状固定にして、治療を終了しませんか?」
  • 「治療費の支払いは今月末までとさせてください。」

治療を続けることができないのかと不安に思うことでしょう。

治療打ち切りの打診の本当の意味とは?

しかし、この打診があっても、治療を続けることができます。

なぜなら、この打診は、保険会社が病院に対し直接に治療費を支払うサービスをここまでとしたいという意味に過ぎないからです。

決して、もう治療ができなくなるとか、最終的に治療費を賠償してもらえなくなるという意味ではないのです。

治療費直接払いとは?

そもそも、治療費は、何故、保険会社から病院へ直接に支払われているのでしょう?

実は、それは事実上のサービスに過ぎません。

自賠責保険も任意保険も、その被保険者に生じた損失を補償する制度です(責任保険といいます)。

この場合、被保険者である加害者が被害者に賠償金を支払った時に、その支出を損失とみて、保険が補填をするのです。

しかし、被害者が直接に自賠責保険や任意保険に請求することを認めた方が、被害者の保護になります。

そこで、自賠責保険では法律(自賠法16条)で、任意保険では約款で、被害者からの直接請求を認めています。

ところで、損害賠償金は、まず自賠責保険から支払われ、その限度額を超える損害額は任意保険から支払われます。

したがって、被害者は、まず自賠責保険に治療費の賠償を請求し、その限度額を超える部分を任意保険会社に請求する必要があり、手続きが負担となります。

そこで、任意保険会社が自賠責保険の負担部分も含めて一括して支払いに応じることで、被害者の手続きの負担を軽くする扱いがなされており、「一括払い」と呼んでいます。任意保険会社は、後に自賠責保険に対して、その負担部分を請求するわけです。

さらに、この「一括払い」のときは、被害者が病院にいったん支払ってから保険会社に請求するのではなく、保険会社が病院に直接に支払う扱いとしています。これが直接払いです。

これには、被害者の負担を軽減する側面と、任意保険会社が医療記録を先に入手して、以後の示談交渉を有利に進めるための側面があります。

この一括払いと直接払いは法律によるものではなく、事実上のサービスに過ぎません(※)。

※これを指摘した裁判例として、大阪高裁平成元年5月12日判決。

サービスですから、いつ中止するかは保険会社の自由です。

保険会社は支払い額を抑えるために、治療費が自賠責保険の限度額を超えそうな場合に、直接払いの打ち切りを打診することで治療の終了を促そうとします。

治療打ち切り打診への正しい対処法

治療の打ち切りを打診されても、それは直接払いのサービスをストップするという予告に過ぎませんから、治療を継続することは自由です。

主治医とよく協議をし、今後の治療継続で症状改善の可能性があるかどうかを判断してもらって下さい。

改善の可能性がないならば、この段階で症状固定とし、後遺症が残ってしまったならば、自賠責保険に対し、後遺障害等級認定の申請を行います。

改善の可能性があり、治療を継続するなら、以後の治療費も、後に自賠責保険及び任意保険に対して請求できます。ただし、保険会社の直接払いはないので、被害者がいったん病院に支払う必要があります。

保険会社が直接払いをしていた間は、健康保険を使わない自由診療の扱いがされる場合がほとんどです。

しかし、そのまま自由診療を続けると治療費が高額となり、被害者がいったん負担する金額が高くなってしまいますので、健康保険を利用しましょう(※)。

※交通事故でも健康保険を使用できることを認める厚労省の通達(昭和43年10月12日保険発第106号)があります。

また自賠責保険には治療費に利用できる仮渡金制度がありますので、その利用もお勧めします。

弁護士がおこなう活動

治療打ち切りを打診された段階での、弁護士の活動の一例を御紹介します。

  • 症状改善の可能性があるなら、医師に対し、その旨を明記した診断書の作成を働きかける、今後の見通しの照会書を送付する等して、直接払い継続を保険会社と交渉します。
  • 健康保険の利用に難色を示す病院には、申し入れをして保険診療を実施してもらいます。
  • 症状固定とする場合は、まず代理人として自賠責保険への賠償金の請求を行います。この被害者請求手続の中には、後遺障害等級認定の申請が含まれます。この場合、被害者側が診療記録等を取り寄せ、後遺障害診断書と共に自賠責保険に提出しますが、これらは事前に弁護士がチェックします。
  • 内容の正確性、より高い等級認定に必要な検査等の実施の有無などを点検します。誤記や検査漏れ等があれば、訂正や追加検査を働きかけます。
  • 万一、等級認定の結果が不満であった場合は、再審査の申立や紛争処理機構への調停申立で是正を目指します。
  • 弁護士による示談交渉は、裁判所の用いる賠償額の基準(弁護士基準)で請求をするので、任意保険会社がその内部基準で提示してくる額よりも高額の示談が期待できます。
  • 示談がまとまらなければ、直ちに訴訟を提起して決着をつけることが可能です。

治療費打ち切りでお困りなら当事務所にご相談ください

弁護活動は事件毎に多様です。

交通事故事件で弁護士が行う活動の全てをここに記載することは到底無理であり、御紹介したのは一般論としてのほんの一部です。

交通事故で治療打ち切りを打診されたときには、当事務所に御相談下さい。