代表弁護士 林 伸彦 (はやし のぶひこ)

交通事故の問題では、任意保険では対人賠償保険、人身傷害補償保険、対物賠償保険など、公的保険では自賠責保険、健康保険、労災保険など、様々な種類の保険が関わってきます。

交通事故の被害を補償してもらうために、これら保険をどのように利用するのか?一般の方には、なかなかわかりにくいことです。

ここでは、交通事故で利用できる各種保険の概要についてご説明します。

加害者が加入している保険

(1)自賠責保険

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、車両の所有者に加入が義務付けられている強制保険で、違反には罰則があります。

人身事故の加害者に賠償金を支払う資力がないときでも、最低限の補償を行って被害者を保護するための制度です。そのため補償の金額には上限が設定され、補償対象も対人賠償に限られ、物損は対象外です。

被害者に過失のある場合でも、過失割合が70%未満であれば過失相殺による減額をしないなど被害者保護が図られています。

主な補償内容は、次のとおりです。

1.傷害の場合

治療費、看護料、通院交通費、休業損害、文書料、傷害慰謝料(入通院慰謝料)など。限度額は120万円まで。

2.後遺障害の場合

後遺障害の内容、程度に応じて14段階の等級を認定し、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益が支払われます。例えば、後遺障害慰謝料の最高額は1650万円、最低額は32万円です。

※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した自賠法施行令別表第1の1級1号の支払いについては、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した自賠法施行令別表第1の1級1号の支払いについては1600万円です。

3.死亡の場合

葬儀費(100万円)(※1)、死亡慰謝料、死亡逸失利益が支払われます。例えば、死亡慰謝料は被害者本人分(400万円)(※2)以外にも、家族分の慰謝料(550万円から950万円)があります。

(※1)自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した事故については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した事故については、葬儀関係費は原則60万円。資料により60万円を超えることが明らかな場合は、上限100万円まで申請が可能です。

(※2)自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した死亡事故については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した死亡事故については、死亡した本人の慰謝料は350万円です。

自賠責保険は責任保険であり、本来は被害者に賠償額を支払った加害者からの請求に基づいて補償を行うものです(加害者請求といいます)。

しかし、被害者保護という制度目的を徹底するために、被害者から直接に自賠責保険に賠償請求を行うことも認められています(被害者請求といいます)。

加害者が任意保険にも加入している場合は、任意保険会社が自賠責保険の負担部分も含めて一括して賠償に応じ、後で任意保険会社から自賠責保険に対して求償するという取り扱いが通常です(一括払いサービスといいます)。

(2)任意保険

任意保険は、強制的な自賠責保険と異なり、加害者が任意に加入する保険です。現在、自動車の任意保険加入率は約75%と報告されています(※)。

※74.6%(2018年3月末時点)「自動車保険の概況(2018年度版)」損害保険料率算出機構

任意保険の主な種類は次のとおりです。

1.対人賠償保険

加害者側が、被害者を傷害・死亡させて、賠償責任を負担したときに、その責任を補償してくれる保険です。

本来は、賠償金を支払った加害者に対して、その金額を補償するものですが、被害者を保護する趣旨から、被害者が任意保険会社に直接請求することが約款上認められており、加害者に代わって任意保険会社が被害者側と示談交渉を行う示談代行が一般化しています。

自賠責保険の限度額でまかない切れない損害を任意保険が負担する制度となっており、いわば自賠責保険が1階部分、任意保険が2階部分の2階建て構造となっています。

今日では、対人賠償保険の補償額を無制限とする保険が広く普及しており、自賠責保険と共に交通事故による損害補償のメインといえます。

2.対物賠償保険

事故相手の車両や事故現場周辺の家屋など、他人の財産に損害を及ぼして賠償責任を負担した場合に、その責任を補償する保険です。自賠責保険は物損を対象外としていますので、対物賠償保険でカバーすることになります。

被害者が加入している保険

(1)健康保険

交通事故の怪我にも健康保険が利用可能です。

健康保険を利用すると、自由診療に比べて治療費が安くなります。また、治療費のうち健康保険が負担する7割は過失相殺の対象となりません。

このため、①加害者が自賠責保険にしか加入しておらず自賠責保険の限度額までしか賠償金が期待できない場合、②保険会社から一括払いサービスを打ち切られて自費で治療を継続する場合、③被害者の過失割合が高い場合などには、健康保険の利用にメリットがあります。

(2)労災保険

事故が業務中や通勤中のものであれば、労災保険が適用されます。労災保険は被害者の雇用主(事業所)が加入し、保険料を負担するものです。

労災保険では、療養補償給付(治療費)、休業補償給付(休業損害)、障害補償給付(後遺障害)、遺族補償給付といった給付があり、その内容は自賠責保険よりも手厚いものとなっています。

しかも、治療費には自賠責保険のような限度額がなく、被害者に大きな過失割合があっても自賠責保険のような重過失減額を受けないなど、多数のメリットがありますから、労災保険が適用される場合は、その利用をおすすめします。

(3)任意保険

ご自分で契約している保険が、交通事故の被害者となったときの被害補償に利用できる場合があり、今日では様々な保険商品が販売されています。

以下にはその主な概要を説明しますが、このような保険商品の内容は、保険会社ごと、各商品ごとに異なるので、実際の契約内容については、必ず、ご自分の保険契約の約款でご確認ください。

1.人身傷害補償保険

交通事故による怪我・死亡の被害を、被害者が加入している保険会社が過失割合に関係なく補償してくれる保険商品です。

被害者の過失が大きい場合や、加害者が無保険の場合にメリットがあります。また、加害者に賠償責任がある場合でも、示談の成立を待つことなく、被害者の保険会社からの補償を受けることができる点も大きなメリットです。

ただし、人身傷害補償保険にも、各保険契約で合意された保険金の上限額があるうえ、補償額は各保険会社が定めた基準によって算定された金額となりますので、全ての損害が補償されるとは限りません。

2.搭乗者傷害保険

保険契約の対象とした車両に搭乗中の事故で怪我・死亡をした場合の損害を補償する保険商品です。

契約中の車に乗っている際に被害を受ければ補償されるので、加害者が無保険の場合などにメリットがありますが、今日では、先の人身傷害補償保険の普及によって、搭乗者傷害保険は消滅しつつあります。

3.無保険車傷害保険

加害者が任意保険に加入しておらず、被害者の損害額が自賠責保険の上限を超えてしまう場合に、被害者が契約している保険会社から補償を受けることができる保険商品です。

自賠責保険での不足額を埋める目的で開発されたとされ、保険金額の上限は2億円程度と高額で、被害者が歩行中に事故にあったときでも補償されるなどの特徴があります。

今日では、先の人身傷害補償保険の特約となっているケースも多いとされています。

4.自損事故保険

単独事故や被害者に100%の過失がある事故の場合は、怪我や死亡の損害が発生しても、自賠責保険はおろか、政府保障事業からの救済も受けることはできません。

自損事故保険は、そのような場合でも、自分が契約している保険会社からの補償を受けることができる保険商品です。

5.弁護士費用特約

弁護士費用特約は、自動車保険の特約で、交通事故問題で法律相談を受けたい場合や弁護士に示談交渉や裁判を依頼する場合の弁護士費用を保険会社が負担してくれる特約です。

法律相談では10万円まで、それ以外の示談・訴訟等は300万円まで保険会社が負担してくれますので、交通事故の被害にあっても、費用を心配することなく、弁護士に相談・依頼をすることができます。

6.政府保証事業

人身事故でも、加害者が任意保険はおろか自賠責保険にも未加入のときや、ひき逃げで加害者不明のときは、自賠責保険を利用することはできません。

そのような場合の最後の救済策が政府保障事業(国土交通省所管)であり、自賠責保険と同水準の補償を受けることができます。手続きは、損害保険会社の窓口で受け付けてくれます。

交通事故で利用できる保険の問題は当事務所にお任せください

交通事故で利用できる保険には各種のものがありますが、公的制度の利用方法や手続がわかりにくいこともあります。

また、特に任意保険については、各損保会社・保険契約ごとに内容が異なり、細かい部分は、その保険契約の約款を詳細に調べないと、適切な利用ができない場合があります。

交通事故事件の経験が豊富な当事務所では、このような保険利用のご相談にも応じています。

交通事故で利用できる保険の問題でお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。