代表弁護士 林 伸彦 (はやし のぶひこ)

交通事故の怪我で、これ以上の治療を継続しても改善しない症状が残ったのに、自賠責保険からは後遺障害と認めてもらえなかった、あるいは予想よりも低い後遺障害等級しか認めてもらえなかったというケースがあります。

このような納得できない結果は、どのような手段で争うことができるのでしょうか。

ここでは、自賠責保険の後遺障害等級認定に対する不服の申立手段について説明します。

1.自賠責保険の後遺障害等級認定は非常に重要

後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、通常、損害賠償の金額の中で、大きな割合を占めています。

その金額は、後遺障害の内容と程度によって決まり、自賠責保険から支払われる賠償額を決める基準となるのが、損害保険料算出機構によって認定される後遺障害等級です。

例えば、むち打ち症による痛みが残った場合、後遺障害等級12級が認められれば自賠責保険からの後遺障害慰謝料は93万円ですが、14級にとどまれば32万円、非該当となればゼロです。

示談がまとまらないときに、最終的な損害賠償額を決定する場となる訴訟では、裁判官は損害保険料算出機構の判断にしばられるわけではありませんが、実際上は、損害保険料算出機構の判断を前提に、被害者側と保険会社側が、その当否を争う形となります。

したがって、自賠責保険の支払額だけでなく、最終的な損害賠償額を決めるうえでも、後遺障害等級は非常に重要と言えるのです。損害保険料算出機構の段階で、より高い等級認定を受けておくことが被害者にとって有利です。

2.後遺障害等級認定を争う手段は3種類

損害保険料算出機構の認定結果に不満がある場合に、これを争う方法には次の3種類があります。

  • 損害保険料率算出機構に対する「異議申し立て」
  • 自賠責保険共済紛争処理機構に対する「紛争処理申請」
  • 裁判所での「訴訟」

「異議申し立て」は、損害保険料率算出機構に対して再審査を要求するものです。これは書面審査で、申し立て回数に制限はありません。

「紛争処理申請」を受け付ける自賠責保険共済紛争処理機構とは、裁判外の紛争処理機関(ADR)で、審査会(学者、弁護士、医師などで構成)が行う書面審査です。申し立ては一回限りに制限されています。

訴訟は最後の手段であり、後遺障害の有無、内容、程度、それに応じた賠償額を最終決定する権限は裁判所にあります。

3.まず異議申し立てを

認定結果に不満がある場合は、まずは異議申し立てを行うべきです。

異議申し立ては何度でも許されますが、紛争処理申請は一度しか利用できません。

それだけでなく、損害保険料率算出機構は紛争処理の審査結果に従うので、以後は、異議申し立てもできなくなり、審査結果に不満があっても、あとは訴訟しか争う手段が残らないからです。

4.異議申し立てのポイント

後遺障害等級の審査は書面審査が原則で、異議申し立ても同じく書面審査です。判断するのも同じ機関ですから、同じ書面では同じ結論しか期待できません。

そこで、例えば、後遺障害診断書を作成した医師に診断書への追記を求めたり、意見書を作成してもらいます。

ケース1 個別の特殊性を記載してもらう

通常、後遺障害診断書は結論だけを記載した簡潔な内容となっています。また、診療記録治療の経過が記載されているだけです。

このため、例えば、医師が個々の被害者の症状に応じた治療を施しても、審査側に理解されず、かえって一般的でない治療経過の故に、交通事故との因果関係を疑われてしまい非該当とされてしまう場合もあるのです。

そこで、このようなケースでは、医師に被害者に応じた治療を施した点につき、その内容や理由を書面にしてもらうのです。

ケース2 再検査の結果を記載してもらう

例えば、手足の関節の可動域が制限されてしまった機能障害の場合は、健康な関節と比較して、どの程度の制限が生じたかによって等級が異なります。

ところが、可動域の測定は、医師が手足に力を加えて実測するため、熟練度や力加減によって数値に差が生じやすく、被害の実態とかけ離れた数値が後遺障害診断書に記載されている場合もあるのです。

このような場合は、医師に再測定を実施してもらい、その結果を書面にしてもらうのです。

ケース3 伝えていなかった症状を補充してもらう

正しい等級を認定してもらうには、被害者の全ての症状を損害保険料率算出機構に訴える必要があります。

ところが被害者は、往々にして症状の一部を医師に説明しないままにすることがあります。取り合ってもらえないのではないか、うるさい患者と思われたくないなどの心理が働くからです。被害者自身が勝手にたいした症状ではないと判断してしまう場合もあるでしょう。

しかし、残った症状が交通事故によるものであるなら、隠すべきではなく、全ての症状を訴えるべきです。

このようなケースでは、改めて医師に症状を伝えて診断書に追記してもらう必要があります。

ケース4 誤記を訂正してもらう

実は、検査結果の数字に単純な誤記があったというケースもあります。医師も人間ですからミスはあります。誤りがあれば訂正してもらって、再提出するのです。

5.異議申し立ては、当事務所にご相談ください

等級認定の内容を異議申し立てで是正するには、法的知識だけでなく、交通事故に関する医学的知識も必要です。

当事務所の弁護士は、後遺障害等級認定に関する豊富な経験を通じて、十分な医学的知識を有しています。

後遺障害等級の認定への不満でお悩みの方は、是非、当事務所にご相談ください。