交通事故で被害者が亡くなられた場合、ご家族が加害者側に請求できる賠償金の中で、大きな部分を占めるのが死亡による逸失利益の賠償です。
では、死亡事故の逸失利益は、どのように計算するのでしょう。
ここでは、その計算方法の基本をご説明します。
死亡事故の逸失利益の計算式
逸失利益は、被害者が生きていれば、将来働いて得ることができたはずの収入です。
したがって、被害者の年収に、将来的に働くことができたはずの年数(就労可能年数)を掛け算すれば、逸失利益を計算できるはずです。
死亡逸失利益=年収×就労可能年数
なお、実務では原則として67歳まで働けると想定して計算をしますので、死亡時の年齢から67歳までの年数が就労可能年数となります。
さて、ここまでは簡単な計算ですが、これで終わりにはなりません。この計算結果から差し引かなくてはならない金額が2種類あるからです。
それが、生活費と中間利息です。
生活費の控除
37歳で年収500万円の被害者が死亡した場合、上の計算式により、500万円×30年=1億5000万円の収入が失われたと計算できます。
しかし、仮に被害者が生きて働き続けるとしたら、当然に生活費がかかりますから、1億5000万円が丸々残るはずはありません。
法的には、事故による死亡で将来の収入を失うという損害を受けた反面、将来の生活費を支出しなくて済むという利益を得たと考え、損害賠償額から将来の生活費を差し引きます。これを損益相殺と言います。
さて、差し引くべき生活費の計算方法ですが、現実にいくら生活費が必要かはわからないので、大雑把な数字を予測するしかありません。
そこで実務では、年収額から一定割合を生活費として差し引く扱いとなっています。
この割合を「生活費控除率」といいます。これは被害者の性別、家庭での立場などで異なり、例えば独身の男性であれば、年収の50%を生活費として差し引きます(この被害者による生活費控除率の違いについては、この記事で後ほど詳しく説明します)。
ここまでの説明での逸失利益計算式は、次のとおりとなります。
死亡逸失利益=年収×(1-生活費控除率)×就労可能年数
先ほどの37歳、年収500万円の例で独身男性とした場合、次のとおりです。
500万円×(1-0.5)×30年=7500万円
中間利息の控除
差し引くべきもうひとつの金額が中間利息です。
逸失利益は将来の収入ですが、仮に生きていれば、例えば50歳時点の収入は、その時にならなければ受け取ることはできません。
ところが損害賠償金は、今の時点で将来分を一括して受け取ることができます。その賠償金を一度に消費してしまわない限り、理屈上は、その賠償金には毎年の利息がつく可能性があります。これが中間利息です。
しかし、損害賠償制度は損害の公平な分担を目的としており、被害者側といえども、利息金で損害額を超える利益を得させることは不公平です。そこで、中間利息を差し引くのです。
さて、具体的な計算方法ですが、中間利息の控除を毎年ごとに計算するのは大変な作業です。そこで、これを簡単にする便利な計算方法があります。それが「ライプニッツ係数」です。
ライプニッツ係数は、就労可能年数ごとに数値が決まっており、この数値を、「生活費を控除した年収」に掛け算するだけで、その就労可能年数分の中間利息を控除した金額が算出できるのです。
また上の例で計算してみましょう。
年収500万円、独身男性、37歳
就労可能年数30年に対応したライプニッツ係数は15.372
500万円×(1-0.5)×15.372=3843万円
具体的なライプニッツ係数の数値は、国土交通省のサイトなどで確認することができます(※)
※「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済金等の支払基準」別表Ⅱ-1(就労可能年数とライプニッツ係数表)
参照:国土交通省HP
死亡事故の逸失利益計算の難しさ
現実の逸失利益算定は簡単ではない
死亡事故の逸失利益の計算方法は以上のとおりですが、これは基本的な考え方を知っていただくために説明を単純化したものにすぎません。
現実の死亡事故事件では、死亡逸失利益を算定するにあたって、様々な事情を考慮する必要があるのです。
ここでは「年収をどのように認定するか」、「生活費控除率をどう適用するか」の2点について簡単に説明します。
基礎収入の認定
ここまでは単純に「年収」と表現してきましたが、逸失利益を計算するうえで前提となる被害者の年収を特に「基礎収入」と呼びます。
公務員のようなサラリーマンであれば、生前の現実の年収は源泉徴収票で明確なので、何も問題はないようにも思えます。
しかし、サラリーマンであっても、例えば次のような問題があります。
- (A)サラリーマンなら将来的に昇給したり、昇進したりする可能性があるのに、事故前の収入で計算するのは不当ではないか?
- (B)若者は一般に所得が低い傾向にあるのに、亡くなった時点の収入で計算するのでは逸失利益の金額が低くなりすぎて不公平ではないか?
(A)については、公務員や大企業のように明確な給与規程・昇給基準があり、勤続年数などによってある程度機械的に昇給できるような場合は、予測できる範囲で控えめに考慮できるとされています(最高裁昭和43年8月27日判決参照)。
(B)については、概ね30歳未満の被害者については、若年であったことが不利にならないよう、賃金センサスの学歴計・全年齢の平均賃金(※)等を基礎収入とする扱いがなされています。
※賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」です。「学歴計・全年齢」とは、学歴による区別のない、20歳から69歳までの全ての年齢層の平均という意味です。
サラリーマンであっても、このように個別に配慮しなくてはならない事情があります。
まして被害者は、自営業者、会社役員、主婦、学生、子供、失業者、高齢者と様々であり、基礎収入の認定も一様ではありません。
生活費の控除率
生活費の控除率は、以下の数字が目安とされています。
- 男性(独身、幼児を含む)50%
- 一家の支柱(被害者の収入で、その世帯の生計が維持されている場合を指します)
被扶養者1人のとき……40%
被扶養者2人以上の場合……30% - 女性(主婦、独身を含む)30%
(ただし、女子年少者は40~45%程度とするケースも)
このような数値を設定するのは、次の考え方に基づきます。
①男性は、独身のときは、その収入の50%を生活費に充てるが、結婚して妻を扶養家族とすると生活費の支出に抑制的になり(つまり節約するようになり)、子どもができて扶養家族が増えると、さらに節約するようになる
①男女には賃金格差があるので、女性が男性と同じ生活費控除率では逸失利益が少なくなりすぎるから、男性よりも低い控除率とする
これは働いて家計を支える夫、家事とパート等で支える妻、数人の子どもたちという家族の形を前提とした考え方で、長い年月をかけて実務で定着してきたものです。
しかし、家族のあり方が多様化している現在では、このような考え方だけでは対応できません。
そのため、実務では上記の基準を前提としつつも、扶養を受ける人の有無・人数(扶養を受ける人が配偶者と子どもか、あるいは老親かでも異なります)、被害者の性別、収入の多寡、共働きかどうか、相続人は誰か(相続人が兄弟姉妹のときは、経済的保護の要請は少なくなります)等の諸事情を考慮して、30%~50%程度の範囲内で数値を修正して用いているのが実情です(※)。
※この点を指摘する文献として「生活費控除を巡る問題」東京地方裁判所民事第27部・中辻雄一朗裁判官講演録(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2009年版下巻39頁)
死亡事故の逸失利益問題は、当事務所にお任せください
ご説明したように、死亡事故の逸失利益の計算は、様々な要素を考慮して判断しなければなりません。
大切なご家族が亡くなられた悲しみも癒えていないのに、そのような問題を考えなければならないことは、残されたご家族様にとって大変な負担です。
当事務所は、死亡事故を含む交通事故問題を数多く担当してきた実績があり、必ずご家族様のお力になれると確信しております。
逸失利益の問題でお悩みのときは、ぜひ当事務所にご相談ください。